Rep. Journal, May 2007

Issued  April 2007

 

アメリカでは最近ミルクの値段が急上昇中だ。スーパーで売られているミルクの価格は1ガロン・4ドルを越えたところだ。これは牛の飼料の値段が高騰しているのと、牛乳を運ぶ物流コストが急上昇しているためであるという。

意外では有るが、ミルクというのは卵やパン・郵便代と並んでその国の物価水準を計る目安の一つになっている。日本ではミルクは、スーパーにもよるが1リッター160−200円ぐらいであろうか。アメリカでは牛乳はリッターなどメトリックサイズ売りではなく、アメリカ・スタンダートと呼ばれるガロン・クウォート売りである。 アメリカでは牛乳はガソリンと共に需要が非常に高い。最近ではその需要はミルク離れで減ったものの、相変わらず高い需要がある。需要が高い分その影響は大きく、牛乳を何かの製造に使っている製品・食品の価格は今後急上昇するであろう。

  

日本でもアメリカのガソリン価格がたまに報道されるが、オレンジの価格が高騰していることを報道していることはない。最近ミルクと並んで、オレンジ・レモン・アヴォカドといった野菜・果物も急激に価格が上昇している。これらは今年初めのカリフォルニアでの寒波で多くのオレンジ・レモンが凍りつき処分せざるを得なかったことに由来している。

またガソリンも再び価格上昇をはじめ、現在では近所のガソリンスタンドでのガロン当たりの価格は$3.40である。この価格上昇傾向は続くようで、ガソリン需要のピークといわれる8月には$4.00越えの可能性も出てきた。 そして アメリカ郵政庁は第一種郵便をはじめとする郵便価格を5月にも再び上昇されると言う。去年郵便代は上がったばかりなのにだ。理由は物価上昇分に対応するためだと言う。 実際郵便局員も度重なる価格改定に参っているようで、最近では常々愚痴を常連客にぶつけている。

アメリカではそれこそミルクから、ガソリン、郵便代、アパートの家賃と急激な物価上昇が続いている。短期金利は5.25%程度だが、物価上昇の方が明らかに早く、早々にも再び短期金利が上昇するかもしれない。

最近ではメディアを含めインフレという言葉が囁かれるようになった。日本のメディアでの証券会社のアナリストは、単に数値だけで判断しているので、アメリカの経済は実に堅調と言うが、アメリカに住んでいる一般のアメリカ人の状況・心理から見て、全く堅調な状況ではない。多くのアメリカ人が経済的に疲弊している。不景気ではないが、賃金上昇が物価上昇分に追いついておらず、高額商品が売れていない。唯一、高額商品で売れているのが燃費の良い自動車 と家電製品だけであろう。

日本でも今のアメリカに似た状況がつい最近まであった。80年代後半から90年代初頭にかけての不動産バブル期の物価上昇だ。当時日本では1万円以下のお金はお金ではないと言う言葉が多く聞かれ、その欺瞞と驕りは その後のバブル崩壊とデフレに結びついた。今アメリカでは当時日本で起きていた驕りの様なものは存在しないが、明らかな物価上昇に人々は困っている。当時日本も好景気と呼ばれ物価が著しく上昇を続けた。物価が上昇している最中は不景気感は一般の心理には起きない。しかしこれが 今、日本のメディアで言われている”アメリカの景気は堅調”ということになるのであれば、それは6フィギャーの給料を貰っている人たちに、統計だけを基にしたアナライズは間違いではないかもしれないが、当たっているとは到底思えない。

ではアメリカの個人消費は上昇を続けている、と言うのをどう説明がつくかと言えばこうである。多くの消費者は住宅を数年前に住宅を買おうとしていた、当時今後の金利上昇は必至で、その当時に住宅を買えば比較的低金利で住宅を購入できた。しかしその当時に設定された金利はほとんどが金利変動性のローンで組まれていた 為、それが現在続いているサブ・プライムと呼ばれる住宅等のローンを専門にするローン会社のローン焦げ付き・破綻に直接結びついている。そしてその当時、住宅の購買を考えていた 多くの人は住宅の価格が高すぎて購買出来なかった。当時(今でもそうだが)、例えばカリフォルニアのロサンジェルス郡・オレンジ郡の平均住宅価格は50万ー60万ドルを越えている。

当時、2ベットアパートの家賃は$1400−1600程度、もし同サイズより若干大きい住宅を購入した場合月々のローンは$1000−$1200程度で、これでは住宅を買った方がロングターム ・税務上圧倒的に有利になる。多くの潜在的購買層を増やした原因の一つに、これらアパートの家賃が半年ごとに5%程度上昇したことが大きい。

そしてアメリカの都市部、とりわけ西海岸で住宅価格が急激に上昇した理由の1つに、韓国人が大量に住宅を購買したことも一因だ。当時韓国は住宅バブルの真っ盛りで、ソウル中心に住宅価格が急上昇、バブル時の日本と同様に、投機を含め 海外の不動産を買い漁った。特に韓国人の多く住む南カリフォルニアでは、ロサンジェルスを中心に住宅が韓国人によって多く買われた。 これも住宅供給が需要に追いつかず、価格が急上昇した理由の一つである。

つまり個人消費は、これら住宅を買わなかった人達と住宅金利を低金利固定性に切り替えた人によるものだ。住宅ほどの高額商品を買うのを諦めれば、プラズマテレヴィや自動車ぐらいはなんと言うこともない。そして今まで金利変動性のローンを組んでいた人たちが、6%程度の金利固定30年ローンに切り替え、そのとき必要金額より多くローンを組んだため 、多少の個人消費が出来るのである。決して人々の雇用状況が良くなったり、財布の中身が増えたり、株・ファンドのキャピタルゲインなどにより増えたわけではない。 仮にキャピタルゲインがあったとしても、それも物価上昇率・メディケアー・ガソリン価格等の物価底上げで効果は打ち消されてしまう。

全米の住宅価格が上昇を始めた頃は、アメリカはイラクでの占領政策を始めたばかりでガソリン価格の高騰は一過性のものと見られていた。そして多くの人々は原油高騰による物価上昇分を考えずに住宅等の高額品を購入して しまったのだ。しかしその後イラクでの占領政策失敗・中国での需要拡大等から原油価格が急上昇、物価がじりじりと上昇をはじめ、とうとう多くの新規住宅購入者・住宅ローンを抱えた人々はローンを払えなくなってしまったのである。 特に住宅ブーム時に投機対象で家を買った人は、現在地獄を見ているような状況に違いない。

しかし物価上昇・短期金利上昇でこの傾向は今後更に著しくなると見られ、今以上にサブ・プライムローン会社は破綻に追いやられるに違いない。そして住宅の抵当物件・裁判所による競売物件・個人破産は上昇するであろう。また多くの製造業は、著しい物価上昇について行けず、倒産・破産・廃業となる会社も続出する可能性がある。既にシティーバンクなどの金融機関では大幅なジョブカット・レイオフが始まったばかりである。 つまりインフレーション・スパイラルである。しかしインフレのスパイラルは長続きせず、ある段階で今度はデフレ・スパイラルへと陥る。 現在小さなサインが幾つも出ている。日本も当時そうだった。 小さなサインが幾つも出ていたが、結局物価が上昇中の際は、景気が悪くなるとは思えず、サインを見逃してしまうのである。しかしアメリカ人の多くはまだ気がついていないようである。

よく世界中の中央銀行総裁や証券会社アナリスト達は景気調整という言葉を使うが、アメリカに限っては今後いつその景気調整となるインフレ後のデフレが訪れるか判らない。そして物価上昇によるピークは近い 、もしくは既にピークに達していると思われ、このピークを境にアメリカに、日本が経験したデフレに近い状況が訪れる可能性がある 。物価がいつまでも上昇し続けられないと言うのは日本が先に経験しているし、多くの日本人は指標に頼らずとも、それこそ感覚で、今の状況が続くはずがないと理解できるだろう。

物価が急上昇した後、その後上昇したペースと同じ若しくは倍のペースでデフレーションが起きる。 実際に日本では倍以上のペースでデフレが進行した。

アメリカの株価は高値ではあるが、バブルのような水準ではないので、株価調整下落が直接的な原因でデフレの扉が開かれることは恐らくないだろう。可能性があるとすれば、住宅価格の更なる下落、住宅ローン会社の更なる破綻、 賃貸住宅の家賃上昇、金利変動、原油価格上昇 ・中東外交により株価がつられて下落と言うような複合的要素の可能性が高い。

...今後数ヶ月は、株価・指標・為替・金利・中東外交を注視する必要があるだろう。

...まあ現金がこのように部屋中にあれば物価が上がろうと下がろう一切問題ないのだが...

おわり

PS1 4月第一週目のイヴニングニュースで、南カリフォリニア全体でアパートの家賃が今後6ヶ月以内に5%程度上昇すると報道していた。また賃金上昇を要求して、多くのスーパーマーケットの従業員・組合員が会社に賃金を少なくともインフレ物価上昇分引き上げるよう要求。今後以前の様に再びスーパーでのストライキが行なわれる可能性が高くなってきた。小さなサインは 既にあちこちに現われている。

PS2 4月第二週では、非常に興味深いアメリカの金融政策変更をにじませる論文・研究結果が出始めている。それは、アメリカ国内の大幅な物価上昇により競争力を失っている現状を考えると、既に金利等の国内 ・マイクロ政策では限界な為、政府・FRBでは第二のプラザ合意を彷彿させるマクロ面でのドルの大幅安を誘導して行く可能性があるというのだ。ドル円レートを100円を切る90 −80円程度まで誘導し、国内ー国外産業の価格差による競争力をつけさせることぐらいしか今のアメリカに残された政策は無いと言う。第二のプラザ合意はドル円だけでなく、先進国の主要通貨全てで行なわれる可能性があり。日本はプラザ合意以降、急激なインフレ、そしてバブルに繋がった。しかし、もし新たな為替政策が合意されても、日本にはバブル時ほどの影響はないと見られるが、しかしながら多少なりとも影響がでるのは間違いない。特に中国や韓国などには影響は大きいだろう。アメリカの為替政策については、今後6ヶ月から1年程度注視する必要があるだろう。

 

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