Rep. Journal, September 2006

Issued  August 2006

ラスヴェガスはロサンジェルスから北東に230マイルほどの砂漠にある大都市である。ヴェガスは言わずとも知られた観光地で、観光客の多くは近隣の州カリフォルニアからやって来る。週末にもなるとカリフォルニアとネヴァダを結ぶ高速道路15号線は大渋滞である。ロサンジェルスからラスヴェガスまでは普通、自動車で4時間、飛行機で45分という距離が週末には陸路で6時間掛かってしまうことはざらである。

そして最近の原油高騰でカリフォルニアから自動車でラスヴェガスへやって来る人は大幅に減ってしまった。片道ガソリン代だけで100ドルというのはアメリカ人でなくとも厳しい。そして原油高騰は落ち着きを見せているものの、それは価格が1ガロン3ドル25セント程度で安定しているだけで、以前のような価格にはもう戻らないだろうと誰もが思っている。 このような事態が収拾を見せない中、カリフォルニア州ではガソリンの高騰を受け、大量公共輸送整備を真剣に考え始めた。仮に道路を拡幅し、車線を倍にしても、海外の原油に常に依存した経済は足をすく われかねない。道路のインフラ整備は一時的な解消策であって、鉄道などの環境に負荷のかからないインフラ整備こそがカリフォルニア経済を本当に将来にわたって強くすると考えるようになったようだ。

民間企業でも、今回の原油高騰は危機より新しいビジネスチャンスだと捉える企業の方が多いようである。現実に民間企業によりラスヴェガスーヴィクターヴィル(LA北東約100キロの町)間の高速鉄道の建設の是非が 今問われよとしている。 デザートエクスプレスと名づけられたこの会社は、将来的にロサンジェルスーラスヴェガス間を125マイル程度のスピードで結ぶ旅客専用の高速鉄道を建設しようとしているのが最近 メディアで報道された。ヴィクターヴィルからラスヴェガスは高規格の旅客専用線をつくり、ヴィクターヴィルからロサンジェルスは既存の貨物線を利用しようとするものだ。

アメリカでは高速鉄道の建設については20年前から計画が出ては消えていった。計画が出るたびに自動車製造業界・航空旅客業界や石油団体が強烈な圧力を掛け計画を白紙にしてきた。しかし 今アメリカの自動車業界、とりわけ以前に強烈な圧力を掛けたアメリカ車製造会社は空前の赤字である。いまや多額の金額をかけて計画に圧力を掛ける余力は全く無い。逆に空前の黒字を出している石油会社も、環境に対する責任やあまりにも暴利を得たことから批判が集中、この時点で 、もし様々な公共輸送計画に圧力を掛ければ、州議会・連邦議会は黙ってはいない。結果的に状況・環境が高速鉄道のような公共輸送計画を押し進めているのである。

州政府によるカリフォルニア高速鉄道の計画路線図

カリフォルニアでは20年以上前にロサンジェルスオリンピックが開催された。実はオリンピック開催に合わせ、サンフランーロサンジェルスーサンディエゴを結ぶ高速鉄道が計画されていた。オリンピック開催に合わせた州内の経済の活性化にはもってこいの事業であるはずであった。しかし自動車業界と石油団体が計画を潰してしまったのである。...もし当時の計画が予定どうり進められていれば、今のカリフォルニアは明らかに現在のカリフォルニアと違った州になっていたであろう。

ところで計画が進められているヴィクターヴィルーラスヴェガス間だが、規格が最高速度125マイル、一部を既存の貨物線を使うことなど、計画全体をうかがわせるような 幾つかの点が明らかになった。最高スピードが125マイルということから、鉄路であって、マグレヴなどの新規格のものではないということ。またそのスピードから車両はTGV・新幹線・ICEなどの輸入ではなく、純国産しかもカナダ・ボンヴァーディエといった 北米企業との合弁による開発もなさそうである。

仏TGVをモデルにした、加・ボンヴァーディエ製アセラ

このデザート・エクスプレス社は、海外での高速鉄道発・受注、共同計画・計画・工事の進捗状況など様々な観点からリサーチをしたようで、韓国でのKTX、台湾での新幹線、中国本土での高速化事業では海外のメーカによる受注競争が熾烈に行なわれ、またシステム設計・実際の工事・運営と外国が絡むと、事業そのものが外交政治化し、事業がなかなか進まない可能性が大であることをしっかり踏まえた節が見られる。 現実にアメリカではかつて東部でのアムトラック高速化事業で車両をフランスーカナダ合弁のボンヴァーディエ社にアムトラック高速車両の設計・製作を依頼したが、出来上がった車両は問題だらけで、仕舞いには構造的な問題を抱え今ではまともに走っていない。

従来のヴィクターヴィルーラスヴェガス線はユニオン・パシィフィックという鉄道貨物会社が所有する軌道(単線)しかなく、現在でもアムトラックー全米旅客公社の車両は軌道を借りている形になっている。アメリカでは旅客は飛行機、貨物は鉄道・トラックと受け持ちがはっきりしているため、この路線では時間当たり片方向3線という混み具合で、これ以上旅客分に線路を振り向けることが出来ない。そのためヴィクターヴィルにあるユニオン・パシィフィック社の貨物ヤードを基点とし、ラスヴェガスまで旅客専用の複線高規格軌道を作ろうとしているのである。現在の原油高騰が将来も続くようであれば十分ペイする可能性がある。 自動車から鉄道への旅客のシフトである。デザート・エクスプレス社ではヴィクターヴィルーラスヴェガスの運賃を片道大人$50前後を予定しているようだ。 ヴィクターヴィルからロサンジェルスは急勾配の続く峠を通らなければならず、この区間に新線を作ると莫大な建設費が掛かってしまう。結果この間は既存のユニオン・パシィフィック線を借りることにしているようである。

しかしこの民間企業の計画は現在州政府によって進められているカリフォルニア高速鉄道の計画に真っ向から公共事業というものに一石を投げ打つ物になりそうである。現在、カリフォルニア州ではマグレヴを含めた高速鉄道計画が州によって進められている。計画がなかなか進まないのは、いつも通り、財源と利権が大きく絡んでいるからである。

独・ジーメンスが提供したカリフォルニア高速鉄道のイメージ車両

欧州ジーメンスなどの大手企業では早くからカリフォルニア高速鉄道のイメージ車両を提供したりと計画を支援してきた。これは計画全体で数十兆円規模以上の大規模公共事業で、もし計画から参加し実際のシステム受注に至るまで加わることが出来れば、企業としてはメリットは計り知れない。しかしこれらはデザート・エクスプレス社が行なう公共事業とは形態が全く違う。前者は財源がはっきりしない州の事業だが、後者は民間の公共という名のついた営利事業だ。利益が出る見込みがなければやらない。しかし国家や州の公共事業というのは最初は具体的な問題解決の為でも、途中から利権という問題から何がなんだかわからない中途半端なものになってしまうものである。

州によるカリフォルニア高速鉄道計画はサクラメント、サンフラン、LA、サンディエゴを結ぶ高速鉄道で、既存のアムトラック・貨物・通勤路線に接続するかどうかは決まっていない。第一期をサンフランーLAとし、第二期をサクラメント、サンディエゴにそれぞれ延伸、第一期工期を5年、第二期工期を3年とし、最高速度200マイル以上の専用線。この路線を夜間は貨物鉄道も走らせ財源の足しにする、ものである。計画では路線は 州の人口集中地帯や州道99号線沿いとするものだ。

計画を聞いただけでデザート・エクスプレス社のラスヴェガス線とは比較も出来ないほど非現実的である。この辺が州政府・役人の考える現実性の無い計画と、民間の計画の違いなのだろう。 これでは本当に計画は予定、予定は未定である。砂漠を300−400キロでぶっ放そうが誰も文句を言わないが、住宅地や商業地を300キロ以上のスピードで走行すれば騒音・振動・電磁波と問題だらけになり、すぐに州を相手とした訴訟が起きるのは目に見えている。民間企業とは違って世界中、とりわけ日本での高速鉄道・市街地での問題を研究した節は一切うかがえない。この州の計画にいくら欧州の企業が支援しようが、欧州での高速鉄道の経験は一切役に立たない。台湾での事業のように、車両を日本、信号設備を欧州と分ければこれまた問題だらけになる。

しかし仮に計画が具体化されシステム・車両・保守などの巡る入札に関してみれば相当な競争が予想される。何せ総延長は1千キロ以上の大規模事業だ。ロサンジェルスでは以前RLT−ライトレールのグリーン線で地元日系企業をはじめ、日系団体が相当に州議会にロビー活動を行い、結果システム一式発注を日系企業が落札させた。今回もし高速鉄道の受注競争が、日本、フランスー韓国連合、ドイツ、スウェーデンで行なわれた場合、中国での高速事業計画に比べ、より日本への落札の可能性は高い。なにせ日系企業の地元カリフォルニアへの貢献は計り知れなく、もしフランスー韓国連合などへ受注が決まれば、多くの企業がボイコットの意味合いもかねて他州へ引っ越してしまう可能性がある。その場合州経済に与える影響はそれこそ計り知れない。我々カリフォルニアに住む日本人・日系人が直接議会に議員を通じて圧力を掛けることが出来る。しかしカリフォルニアに住む韓国人も年々大量に増えており、経済規模では既に日系社会を優に超える経済規模を確保している。その経済背景から議会に容易に圧力を掛けることも可能だ。

新幹線を是非カリフォルニアの青い空の下へ...

ロサンジェルスでは2016年のオリンピック誘致に立候補しており、もし選ばれれば、1984年オリンピック時のような計画倒れになる可能性は少ないかもしれない。州政府 ・議会の議員・役人を選ぶ一般市民は原油高騰によるガソリン高騰で消費だけでなく、環境に対する危機感が非常に高まっているからだ。計画の後押しにはもうひとつ何か大きいオリンピック招致のような出来事が必要かもしれないが、高速鉄道はカリフォルニアは明らかに必要である。またデザート・エクスプレス社によるラスヴェガス線の最終的な決定は向こう数ヶ月中に決定される予定である。

おわり

PS 東海道新幹線建設の財源を世界銀行に求めたところ、反対したのはフランスとアメリカだった。アメリカが反対した理由は、当時の自動車業界が猛反発し議会・世界銀行に圧力を掛けたからである。当時も今も、世界銀行の総裁はアメリカ人だ。しかしそんな反対からも建設は国家事業として始められ、40年以上たった今、東海道新幹線は、日本の誇りであると共に日本が世界に提案できる大量都市間輸送のモデルとなったのである。

 

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