Rep. Journal, May 2006

Issued April 2006

   欧米では今、違法移民者による国家・社会への財政圧迫が深刻である。欧州ではEU拡大により、より低賃金で働く労働者が先進国の失業率を上昇させ、社会保障・教育費をはじめてとする財政を急激に圧迫している。北米、とりわけアメリカではその国家の成り立ちが、機会を求めやってくる移民によって成り立っているはずが、今度は財政圧迫によって、これら新規移民の機会を閉ざしつつある。最近欧米で起こっている学生によるデモやストライキは偶然に起こったものではなく、根にはこの移民問題と富の分配と言う複雑な問題が寄与している。

今回は最近の欧米でのデモ・ストライキを踏まえて移民の現状を見てみたい。

  

日本を除く先進国では1960−70年代に東欧からの移民が一時的増えた。これは東西冷戦構造の中、東側から政治亡命をしてくる人々がほとんどであった。そしてヴェトナム戦争の終結により、旧南ヴェトナムから大量の難民がアメリカ・カナダに押し寄せた。その量の多さから日本もインドシナ難民法を適用、幾らかの難民を受け入れ るに至った。しかし数の上では十万人以上と言う大規模な難民をアメリカは受け入れた。当時の政治亡命・難民は大規模であったにもかかわらず、現地では受け入れられ、彼ら難民達もホスト国にうまく定着して行った。

そして冷戦構造の終結によって東西・南北・宗教・富における全てのバランスの均衡が崩れてゆく。冷戦に勝利した西側はそれまでの軍事的な対峙による大幅な軍事費の支出を経済に振り分けることが出来るようになった。旧西側先進国では急速な経済成長を成し遂げ、南北格差が更に顕著になってゆく。この様な状態の中、労働者不足が顕著になりだし 、先進国では旧東側からの移民規制を大幅に削減、大量の移民が欧米に押し寄せることになる。これが90年代に起こった移民の様相である。しかしこれら新規の移民達は基本的に経済的な格差でやってき一般人である。60−70年代にやってきた高等教育を受けた移民とは違い、基本的に労働者階層だ。そして先進国は景気の波をくだり、不景気の時代に突入する。生産過剰・労働人口過多・社会保障圧迫により欧米の政府ではこれら新規にやって来る移民を規制しだした。

ところが21世紀に入り、東西・南北の経済格差は縮まるどころか広がる一方である。この格差から違法で先進国にやって来る移民は後を絶たない。結果、国家の国民に対する支出は更に上昇、万年的な財政赤字化となる。このような中、80−90年代から富を蓄え始めた階層と、新移民達の間に、明らかな経済格差が生じるようになった。富めるものは更に富、貧しいものは更に貧しくなる構造である。貧しい新移民達は新しい雇用・教育の機会は与えられず、生涯労働階層として、そして次世代もその貧しさゆえに、貧困層から抜け出すことが出来ない、貧困のスパイラルである。

アメリカという国は移民から成り立っている国である。これら移民は世界中から富と自由にあこがれてやってきた人々だ。世界中の様々な地域からやってきたが故に、自由・人権などという基本条件を憲法に定めた。各個人のバックグラウンドが違いすぎるからである。とかく全てをマニュアル化にするのは、文化の違いを乗り越える手段であった。アメリカという国は富という意味においては完全なピラミッド構造を持った国である。はじめてアメリカ大陸にやってきたヨーロッパの移民たちが基本的にアメリカをコントロールしている。つまり彼らの子孫が今もアメリカをコントロールしている。ピラミッドで言えば頂点ということだ。その下の階層に、19世紀にやってきた移民、そしてその下に、20世紀にやってきた移民。最後の富める移民階層が70年代の移民である。これら移民は現在ではアメリカの政治・軍事・経済の中心に居る。しかし80年代以降の移民層は労働階層から上に上がれない。それは 80−90年代後半頃から富の分配が行なわれなくなって来たからだ。労働者はいつまでも労働者。労働者の子孫も宝くじが当たらない限り一生労働階層にとどまるようになった。

ヨーロッパでは欧州連合の形成により人・金・物の移動の自由が保障されるようになった。しかしこれは旧西側先進国だけであればメリットのあることである。 人・金・物の移動は経済を活発にするからだ。しかし急速なEU東方化によって、十分市場主義化されないまま現在に至っている旧共産圏の貧しい国々から多くの労働者が流入してきている。旧西ドイツでは 旧東ドイツの経済的併合から、失業率は未だに2桁から脱することが出来ないでいる。旧西ドイツは旧東ドイツと10倍以上の経済格差を持って東側を経済統合したが、それほどの経済力をもっても10年以上たった今でも、清算はおろか、未だに旧東側に対するインフラ整備等で莫大な出費を強いられている。 そして東側からの安価な労働者は西側の負担を増大させた。東ドイツは旧東欧共産圏諸国の中でも経済・生産力、識字率・教育程度は特に高かったが、 それでも社会負担は莫大だ。統一から10年以上経った今でもドイツでは軍事費は大幅に減ったものの、東独合併による教育・社会保障費が莫大に増えている。

しかしEUの東方化は、経済力世界3位の西ドイツが東側最優秀の東ドイツとの合併でこれほどまでに負担が増えたレベルの比ではない。EUではルーマニア・ブルガリア、はたまたトルコと東方化が進んでいる。結果フランスやイタリアでは、EU東欧加盟国から大量に労働者が移民となって押し寄せ、これら国民の負担が増えている。つまり最近パリで起きている学生・デモは表面では労働条件の柔軟化に反対するものだが、政府が労働市場を柔軟化させない限り、移民労働者との格差は広がる一方で、社会が 大混乱に陥る可能性があることが根底にある。 政府は早いうちから労働市場を柔軟化させ、移民を定着させることが結果的に政府の負担を減らすことと理解したようだが、しかし市民の間では富の分配に対し消極的である。この軋轢はデモやストライキという形で現れるのだ。

国境を取り除くことは事実上、人・金・物の移動を自由にする。結果国家間の富の格差による侵略戦争・紛争・係争が解消される意味が大きい。2回もの大大戦を経験してきたヨーロッパは、国境を取り除き欧州の富の平均化を図っていくのであろう。

ところがアメリカは反対に本土が戦場となったことはない。独立戦争は自分達がイギリスから独立を図った戦いで、 対スペイン・メキシコ戦争は、テキサスやカリフォルニアを奪うことはあっても、アメリカ本土が外国から”人・金・物”奪取すべく攻められたことは無い。常に自分達は攻め側であった。 自分達が攻められる側になったことは最近の違法労働者の大量流入による富の分配が起こるまで無い。そして独立からまだ200年程度で国家として歴史が浅く、欧州のような人・金・物の自由な移動と言う概念が形成されていない。EU形成により刺激を受けたアメリカは、カナダ・メキシコとNAFTAというやはり、人・金・物、の移動 の自由を保障する経済ブロックは、今では人の自由な移動が大量に起きたため、既に多くのアメリカ人からNAFTAはアメリカの最大の失敗と揶揄されるようになってしまった。このNAFTAの開設によってメキシコを通じ多くの違法移民が増えてしまったからだ。 つまりEUの東方化によって富の分配が起こってきているような事態がアメリカでも発生しつつあるということである。

アメリカではヨーロッパでの学生デモと時を同じくして大規模なデモが全米で起こった。欧州とアメリカで起きた学生デモは底辺では人の移動の自由化によって起こる富の分配が底辺にあるの だが、アメリカで起きた学生デモは連邦議会による違法移民者やこれを雇用した者に対する罰則の強化反対が主である。しかし両者とも移民が底辺にあるのは変わらない。デモに参加した多くのヒスパニック学生は、親が未だに違法滞在の者も少なくない。そして今回の新移民法改正では、国境の強化も図られることになる。欧州の国境を取り除いて行くのとは全く逆である。アメリカではEUの東欧からの移民流入に対し、彼らの資本・富が次々に流出し均一化されて行くのを見て、 恐怖に耐えられなくなったのであろう。つまり富の分配を起させないようにしているのである。国境を守ることによって本来の国境の意味である、人・金・物の移動を制限しようと言うのだ。全く欧州とは反対な動きで、まさに時代逆行である。

アメリカではその近隣諸国との経済格差から多くの違法移民が日夜流入してきている。最近のリサーチでは、結果として違法移民の存在はアメリカにとって10−16%のメリットとなっているというのだ。これは農業・生産・建築など様々産業での低賃金による雇用による生産力アップから違法移民の流入による社会的費用の負担を引いたものだ。つまり欧州の様に、結果的には人・金・物の自由を図ったほうが国家としてはプラスとなるということだ。アメリカの本当の強さの源は違法移民によるものが大きいということだろうか。

  

大陸国家であるヨーロッパとアメリカにおいては、既に国境というものは意味を果たさなくなってきている。事実上、経済・金融上では国境はすでに廃しているのに、それに反比例するかのように人的交流を閉ざせば、彼らが常に提唱している自由貿易・市場経済を否定することになる。その結果ダブルスタンダートという 矛盾がどんどん大きくなり、最後には内部崩壊する恐れすらある。利益・国益を得るための自由貿易が結果的に富の分配を推進させるということになるとは考えていなかったのだろう 。

アメリカではヒスパニックを含む白人以外の上院・下院・州知事・市長の数が増えてきている。彼ら地域の代表者はその地域の人種を反映している。アメリカが自由貿易を提唱して以来、これら白人以外の議会関係者が大幅に増えたことは大変皮肉である。 最近アメリカ国内で移民法改正に反対のデモを見ていれば判るように、もしアメリカがこれら違法移民をアメリカ市民として認めてしまえば、ヒスパニック人口は圧倒的に増える、結果今の議会での白人政治層の地位・数は維持が出来なくなる。しかしながら経済格差の差を縮める自由貿易を進めなければ、違法移民の数は減らない、違法移民の数が減らなければ国家はもたなくなる、というジレンマをどう解決してゆくかは非常に難しい。アメリカでは毎年50万人以上の違法移民が入国をしている。すでに違法移民の数は2000万人を超えているとも言われる。業種によっては3−4人に1人はこれら違法移民を労働力として雇用している。これら違法移民を雇いいれている白人層は、これら違法移民の労働力が無ければ、建築・農業・清掃などの業種は成り立たないと言う。

...ショートランでは富の分配の過程から様々な問題が発生するであろうが、ロングランで見れば、欧州の様に国境を廃止し、人・金・物の移動を自由にすることが、最良であろう。そして21世紀は一国という概念から大陸単位の概念に移行すべきなのだ。 さもなければどのリサーチ結果でも、21世紀はアメリカが世界第一位の経済力を維持すると言うが、それらは全く無理な話で、それこそ、アメリカ内部からその倫理・論理矛盾によって崩壊してしまうだろう。

おわり

 

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